こんにちは、水野です。
最近気づいたのですが、
世の中にはまだ知られていない「技」のようなものがあるようです。
柿本流という人物がいます。
かきのもとりゅうと読むようです。大人計画の松尾スズキさんが名づけ親なのだそうです。
彼はスクールデイズという映画の脚本家をしています。
先日、柿本に誘われて演劇を見ることになりました。
彼は映画の脚本を書くような人物ですから、劇団系に知り合いが多いみたいです。
毛皮族という劇団でした。
ほとんどが女性で構成され、ニップレスをしているという劇団でした。
さて、
2時間あまりの演劇も終了し、最後の告知の時間に、
クイズに答えられた人に主催者の人が書いた小説をプレゼントする、余興が始まりました。
で、そのクイズは
「今、私がはいているホットパンツは誰を意識したものか?」
という問題でした。
さて、
余談ですが、僕はこのような形式で出されるクイズ(「会場に向かって『手を挙げてください』形式)
には必ず手を挙げて答えるようにしています。というのも、この「会場に向かって『手を挙げてください』形式で手を挙げる人を見たことがなくていつも「手を挙げてください」と言い出した人が「あ・・・」みたいな空気になるのがつらいので、その空気を未然に防ぐべく手を挙げるという
ようするに、僕はいい人なのです。
というわけで100人以上の人が見守る中、手を挙げて質問に答えました。
「そのホットパンツは、B’zの稲葉さんを意識したものだと思われます」
すると、劇団の主催者は言いました。
「…正解です」
***
「いやあまさか1回目で当たってしまうとは、失敗でしたわ」
座席から立ち上がりながら僕は柿本に言いました。
「なんか変な空気になってしまいましたもんね。普通なら間違えてもっとやりとりを楽しむところですもんねぇ」
すると柿本は言いました。
「確かに1回目はないよなぁ」
そのあと、僕はなんとなく会話の間を埋めるためにこんなことを言いました。
「ちなみに、あそこ、柿本さんだったらどう答えます?」
柿本はしばらく考えてからいいました。
「のび太、かな」
「のび太、すか!?」
「ああ、のび太だ。」
「いやあさすが柿本さんですね!あそこでのび太は思いつきませんでしたわ!」
すると柿本は表情をほころばせて続けました。
「ま。あとは、B’zで振っておいて、『松本』とかね。」
「なるほど、そっちですか。逆に」
「まあそれくらいの機転はきかせてもらわないと。あれ、なんだっけ、君の書いたあの「ウケなんとか」って本」
「ウケる技術です」
「そ、そ。その著者が、あそこでB’zの稲葉て」
「ははは、すみません」
「でもさ、俺が思うにこれ半年前のケイヤだったらあそこでB’zの稲葉じゃなかったと思うのよ。
あの分岐点では確実に松本選んでたと思うのよ。…ちょっと座らない?」
結論から言うと、このとき僕は場に流れ出した不穏な空気に気づいておくべきでした。
しかし、僕はこのとき、すでに完全に柿本の術中にあったのです。
本多劇場ロビー横にあるベンチに腰を下ろした柿本は座るとすぐにこんなことを言いました。
「お前、最近セックスしてる?」
「え!?どういうことすか?」
「つか、お前、モテないだろ」
「え…」
「いや、ぶっちゃけ、どう? モテてないだろ?」
「そういわれると最近モテないかも…」
すると柿本はタバコに火をつけながら言いました。
「お前の持ってる空気がさ、ズレてんのよ。世間と」
「は、はぁ…」
「それが、やっぱり出てたよね。あの稲葉発言に」
「そ、そうなんすか」
「っていうか俺に言わせたらあの稲葉はかなり問題発言だよ」
「…」
「体調が悪かったら肌に出るだろ。それと同じでさ、稲葉発言はある種、お前の吹き出物だよ。ま、一般のヤツなら見落としてたかもしれないけど。ほら、俺、柿本だし」
「はぁ…」
「で、なんで、稲葉だったわけ?」
「でも、ホットパンツ=稲葉じゃないすか。普通あそこは稲葉ですよ。」
「でもお前、あそこで「もしかしたら正解してしまう」可能性をシミュレーションできてなかっただろ」
「それは確かにそうですが…」
「基本的にお前ってさ、多角的に考えられてない部分あるよ。そういう弱さが出てるよね。「ウケる日記」の行間とかにも」
「え?」
「行間がね、長いでしょ」
「え、ええ」
「あれってようするに、丸投げしてるってことでしょ。読者に。」
「…」
「空気をさ、読者に丸投げしてるよね」
「ちょっと言ってる意味が」
「出てるよ。お前の弱さが」
「は、はぁ…」
「主人公、殺しちゃったでしょう」
「は?」
「バッドなんとかって本の」
「あ、バッドラックです」
「あの主人公さ」
「アレックスです」
「その、アレックス、最後、殺したでしょう。」
「え、ええ…。結末としては、ああした方が…」
「読めてないよね。空気が」
「そ、そうですか…」
「あそこは、殺したらダメなのよ。読者はあそこでアレックスが死ぬのを望んでないでしょ」
「…。」
「あれも稲葉よ」
「稲葉ですか。」
「女が見たよ」
「何をですか?」
「ウケる日記だよ。」
「ああ、『巨乳ちゃんを攻めなかったことで責められた件』ですか」
「めっちゃ怒られたよ」
「…稲葉ですか?」
「あれはもう稲葉通り越して、稲葉浩志だよ」
気づいたら30分以上、本多劇場のロビーの横にある喫煙所で本格的なダメ出しを受けていました。
今回は、僕が柿本の「のび太」を持ち上げた瞬間に、柿本はロックオンし、立場を確定させた上で
徐々にダメ出しを本気モードにしていくという手法が取られていました。
これが柿本の「スライドダメ出し」です。
普通の会話から徐々にダメ出しをする側に自分のポジションをスライドさせていき、そのダメ出しの内容もどんどんスライドさせ、最終的にダメ出しの無限ループを作り出すという技です。
だからなんだ、ということなのですが、
とにかくこの男はこういうことをするのです。
2006年08月02日 06:31