熱いストーブに1分間手をのせてみよう。すると、まるで1時間ぐらいに感じられるだろう。ところが、かわいい女の子といっしょに1時間座っていても、1分間くらいにしか感じられない。
それが「相対性」というものだ。
アルバート・アインシュタイン
その日。
通常であれば、15分程度で着いてしまうはずの、山手線、新宿~恵比寿間は、2時間以上に感じられた。
僕はダメ出しをされていた。
合コンの、ダメ出しである。
新宿駅で山の手の終電でと前置きし、その小男は話し始めた。
「君が、行かなきゃいけないわけで。あの巨乳ちゃんは」
最初、冗談かな、と思った。
確かに、「合コン後の反省会」という言葉は存在する。しかし、実際のところ、きっとその反省会は軽い冗談まじりの会話で構成されているはずであって、間違っても、高校時代の部活で負け試合後の緊迫感でもって反省会が行われることなど現実的にはないと思っていた。
だから、僕は「すみません」と言いながらてへへへと軽く笑った。
それは、「いま僕たちは軽いコント的な会話を演じているのですよね?」という確認の意味が込められていた。
しかし、その笑顔を打ち消すかのごとく、その小男は少し声のトーンを上げてこう言った。
「タンバリン叩くのも良いんだけどね。回りが見えてなかったよね。逆に。」
新宿の居酒屋から2次会はカラオケというよくある合コンの流れだった。
カラオケで、僕はタンバリンをたたきまくり、ノリの良い曲を歌うといういわゆる「盛り上げ役」をかって出たのだ。
「いや、分かる。分かるよ。」
小男は顔を小刻みに縦に振ると、また前置きをした。
「お前が場を盛り上げようとしてああいったポジショニングをしたのは分かる。」
そして、その後、今までにないような真剣な表情と鋭い目つきをした。
「でもな、ケイヤ。それじゃダメなんだよ。たとえば…そうだな。新幹線。新幹線は、確かに、お前の実家の愛知に帰るときは、便利な乗り物だ。目的地まですぐに連れてってくれる。でもな、速くて直進するだけの電車だけでは行けない場所も存在するんだよ。たとえばお前が今向かっているのは恵比寿だ。しかし新幹線は、品川や東京には止まることはできても、恵比寿には止まれない。お前を目的地に連れてってくれるのは、そう。この、山の手線だ。いいか?お前が新幹線である自分に誇りを持つのはかまわない。でもこれだけは忘れないでくれ。
合コンは―――チームプレイだ」
何を言っているのだ、この小男は。
いや、確かに僕も雑誌に取材で「合コンをどう立ち回るか」ということに関して話したことはあり
その時、読者サービスとして、「合コンはサッカーに例えられます」「合コンはスポーツに似ています」
などと言うこともある。しかし実際の合コンは、そんなことを考えず、楽しんでいる。当然だ。だって合コンだもん。
しかし、この男は違った。
真剣だった。
真剣そのもので僕に対峙し、そして真顔で言ったのだ。
「なぜ俺がここまで言うか分かるか?お前が思っている以上にお前があの巨乳ちゃんを攻めなかったという事実が持つ意味は大きい。お前が巨乳ちゃんを攻めなかったことによって、つまり4to4の関係が崩された。そして最終的に俺が同時に2人の女を相手にしなければならなくなったのよ。そして俺は同時に2人を相手にすることによって、俺はhopで荒唐無稽な会話をしなければならなかった。deepで雄雌の会話にたどり着くことはできなかったよ。なぜ攻めなかった?お前はなぜ巨乳ちゃんを攻めなかった?…よし、100歩譲ってあの巨乳ちゃんがお前の好みではなかったとしよう。なぜ申告しない?自分は巨乳ちゃんが好みではない、という事実を、1次会終わりの時点で俺に伝えない?そのコミュニケーションさえ守られていれば、2次会のシフトは違ったものになったろう。しかしお前は何も言わなかった。「2次会行きませう!」と叫んだだけだった。だとしたら俺は思うよ。男の誰もが欲するところの巨乳ちゃんをお前にあてがっておけば問題なかろうと。しかしお前は攻めなかった。巨乳ちゃんの横でタンバリンを叩いているだけだった。いいか、今日俺たちが男同士で終電に乗っている原因は全てお前が巨乳ちゃんを攻めなかったことにあるんだぞ。そこんとこ、分かってるのか?」
電車は渋谷駅に到着し、僕たちがいる側の扉が開いた。
何人かの人が降り、それより多くの人が車内に入ってきた。
その拍子に会話は中断された。小男の小言もこれで終わると思い僕は胸をなでおろした。
扉が閉まるのと同時に小男は言った。
「閉所恐怖症と関係あるわけ?」
「え?」
「お前、閉所恐怖症だったよな?」
「…ええ、そうですけど。」
「巨乳を見ると、谷間に挟まれた自分を想像して怖くなる、みたいな」
「いえ、そういうわけじゃ…」
「じゃあ説明つきませんでしょ。巨乳ちゃんを攻めなかった理由が」
その後の渋谷~恵比寿間。
いかに男性にとって巨乳が大事であるか、今、旬の巨乳は誰であるか、そして自分がいかに巨乳が好きであるか、社会において巨乳以外は全て必要悪だ、という話をこんこんと聞かされた。
電車から降りたあと、真っ先に僕は思った。
この男とは縁を切ろう、と。
それから数日後。
この男から1通のハガキが届いた。
映画試写会の招待状だった。
1行の文章が添えられていた。
「脚本書いちゃいました」
あれほどまでに、「巨乳を攻めないことを責める男」が書く映画というのはどんなものであるか。
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「スクール・デイズ」
誰もがクールな役柄を想像する田辺誠一を完全なるボケキャラに仕立て上げ爆笑を誘う一方でしかしその周辺では主演・森山未來を中心にサスペンスホラーが展開するという総合エンターテイメント作品。
お世辞抜きに面白かった。
ただ、巨乳ちゃんとして出演していた愛川ゆず季が、僕の攻めなかった巨乳に少し似ていたのは、この映画の脚本家「柿本流」からの、今だ続くあの日からの執拗なメッセージのような気がして―――心地よいラストとは対照的に、少し気分が悪くなった。
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「スクール・デイズ」 脚本:柿本流(巨乳を攻めなかったことを責める人)
1月末までテアトル新宿で公開している模様です。
今年一番のオススメ映画です。
2006年01月12日 16:20